小学館少年少女世界の名作日本編-4「ゆうれい塔」 

世界の名作を子供向けにアレンジして提供というのは、それだけで読んだ気になってもともとの作品をきちんと読まないでしまうという大きな危険性をはらんでいる。それでも、小さいときに名作に接することは貴重な原体験としてありがたいものであることには間違いない。
タイトルの全集は小学校全学年が対象だ。そこで接して以来、「白鯨」や「ああ無情」なんかちゃんと読んでいないのはまずいなあと思うが、ひょんな作品との出会いもあった。8月30日に取り上げた「洞窟の女王」に接したのもこの全集。

多くの作品の中で異色の“たんてい物”だった「ゆうれい塔」。
すんごくおもしろかった。謎めいた美女とか“大どけい”とか“くも屋敷”とか。

ヒロインのトレードマークであり物語の大きな鍵であるのが彼女の左手の手袋。右手は普通なのに、左手のそれは「こまかな金の鎖が網になり、ところどころに真珠がつながった」というしろもの。それは彼女の致命的な秘密につながっているわけだが、子供ながらにツッコんだぞ、“隠しておきたいんなら、片方だけ違う目立つ手袋をはめるなんてわざわざ人目を引くようなことすんなよー”と。「装身具なら左右そろっているはずなのに、左手だけとはどういうわけか」と主人公もすーぐ思っている。

後年、黒岩涙香の「幽霊塔」を解説した文章を読んではるか昔の記憶がむくむくと頭をもたげる。げっ、あの全集の「ゆうれい塔」はこれだったんだ!と愕然。

が、なぜ「ゆうれい塔」がいたく印象に残ったかというと、内容のおもしろさだけではない、挿絵がちょっと凄かった。全集は“常連”の何人かのほかゲスト的に一、二作だけ描く画家もいたのだが、この作品のみに登場する画家の絵ときたら、あの時代の探偵小説の雰囲気を倍増して余りある、美しくもおどろおどろしい、おどろおどろしくも美しい、とにかく凄いものだった。人物は和洋折衷にクラシカルにくどく、華麗で、色彩はくすんでいるのになぜか鮮烈に飛び込んでくる。今、当時の感覚を言葉にしてみれば、「これってなんか凄い世界かも」。インパクト大もいいところでした。

これを書くに当たりこの一巻を何十年ぶりに引っ張り出した。画家の名前を見てみたら、石原豪人とある。

ネットで出てくるかなと軽~い気持ちで入力してみたら……、先生、やっぱちょっと凄い、コメントするのもおこがましいほど。確かに、虎とかキツネザル、果てはクモまでどこか妖艶。うぅむ、出逢ってよかった、調べてよかった。「ゆうれい塔」以外の作品、ぜひ見たいです。

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