山際淳司編著「プロ野球グラフティ 阪神タイガース」

本棚を整理していたら出てきた新潮文庫の「プロ野球グラフティ 阪神タイガース」。存在をすっかり忘れていた、仰天の一冊。

「猛虎奮戦譜」という章に「思い出しとくんなはれ!」と冠がついているように、そしてその章の最後の項、対巨人1000試合目に完敗したことについて「それは現在のタイガースの象徴的な姿ともいえる」とあるように、長い長い雌伏の期間のただなか、1983年3月に発行されたものだ。

どのページにも山際淳司ならではの深くて温かい眼差しが満ちている。
巻頭のストーリーは「タイガース新時代-開花する安藤野球」。就任1年目を終えた監督・安藤統男の指揮の分析と言葉の引用から立ちあらわれてくるのは、“もしかすると勝利の美酒を味わわせてくれるのではないか”という期待だ。「(安藤は一滴も飲めないというから)勝利の美酒を飲むのは、したがって、われわれの役目ということになる。タイガースの優勝を、待ちたい。」という締めの2行が沁みる。

彼が安藤野球の特徴の一つとしているのが投手の継投策。それは「そもそもタイガースの投手陣が弱体だから」。そのとおり。
“誰にだって完投させたいが、チームが勝たなければしょうがない。相手を抑え切れる投手が揃っていないから分業でいくしかない”という安藤の考え方は、当時はまだ文字にするに値したんでしょう。「緻密なリレーで、多彩なピッチャーを織り込んでいくほかないのだ。戦力に応じたフレキシビリティー」と、筆致には評価と愛情がこもっている。
フレキシビリティー。現在の阪神も継投のチームだが、“投手が踏ん張れないから”、“打線の援護がないから”、理由はどうあれ『勝利の方程式』もバリエーションが増えてきた。復活してしばらくになる猛虎だが、あらゆる面でいろいろな意味のフレキシビリティーが求められる時期に入ってきているかもしれない。

もう一つ、「きわだった」との形容を付している特徴がスチールである。
なんと安藤野球には「走れ」のサインはないと。出しているのは「走るな」のサイン。局面によってスチールすべきではないときがある。そのときに「走るな」を指示し、それ以外はすべて走っていいということなんだそうだ。走る走らないは選手の自由。その中で一人一人の選手にプロとしての能力を試している、求めている。
先日のイチローの連続盗塁失敗のときの采配、そして相手に走られてもこちらは走れない今季の阪神ということで、考えさせられてしまう。きょうも、盗塁絡みで追加点をとられる一方、相手の返球が素晴らしかったとはいえ、“足がなく”本塁アウトになってしまった。塁を進ませないこと・塁を進めることは本当に大きい。

20世紀中の優勝も猛虎復活もまだ未来のこのころ、阪神ファンは熱狂と偏愛と自虐の中にも謙虚を忘れることはなかったんじゃないか。
自虐はともかく、山際氏の文章にも雌伏の状況下ならではの謙虚な熱さ・篤さを感じる。そして視線は、雄飛を願い上を見上げるものだ。“常勝軍団化”でいささか見下ろす気分が自分にあったことは否定できない。昔を思い出すべきと、この一冊と再会させてくれた運命に感謝。

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