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zoom RSS ほたび

<<   作成日時 : 2006/02/07 22:11   >>

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物心ついたときから自分の団地と中心市街地を結ぶバスの窓から目にし気になっていた「スナックほたび」。正確には、「スナックほたび」とドアだったか壁面にあった(ペイントとか看板じゃなく、壁と色の違う木材みたいなのが打ち付けられていたような…)放置され切ったいわば廃屋である。
ひところ一世を風靡じゃないけど、私のみならず世の少なくない方々の日本語感覚に余りある違和感をもたらしたであろう「ほふり」の姿の消しようはある意味お見事。「ほふり」、我々は忘れていけないと思うのだが、それはさておき今回は「ほたび」の思い出について。

幼い私が気にとめざるを得なかったのは、「ほたび」という何だかよくわからないスナック名が先だったか、市街地から東西南北の一方向の準中心的エリアで、鉄道の駅ありバスターミナルあり、各種店舗に医院なんかもそろったそれなりに賑わいのある町並みの中、気がついたときは既に扉を閉ざしてしばらくたっているとしか見えない、まして人の出入りなんかもう長いことないんじゃないかとしか思えない、半ば廃墟化しつつあるうち捨てられたような様子が先だったか、それはもう覚えていない。その両隣は普通に人の出入りのある店舗と医院だっただけに、なおのことその廃墟ぶり、寂れた空気は異彩を放ち、かつ、にもかかわらず朽ちもせず残っていた「スナックほたび」という文字は嫌というほど自分自身に刻み込まれた。

初版で購入したのが96年、その後まともに読み返すことはしてはいないから、先日ほぼ10年ぶりにり全編通してじっくり味わった創元ライブラリの中井英夫全集の「とらんぷ譚」。以前読んだときにはどうやら結びつけることもなかったようだが、「悪夢の骨牌」中の「暖い墓」に現れた“ほたび”というルビに心臓をぎゅっとつかまれたような感覚を覚えた。「ほたび」、幼い私が意味を知りようもなく何だか変な響きと思っていた言葉が中井英夫の作品に姿を現すとは。

「大辞林 第二版」 によると、榾(ほた)火、ほたをたく火とのこと。また、榾とは、一つに囲炉裏やかまどでたく薪、掘り起こした木の根や樹木の切れはし、いま一つに、大きな材木、また地面に倒れて朽ちた樹木、とある。そして中井は、煙草に火をつけようとするさまを描くに「榾火から火を移そうとして」と用いている。
そうか、「ほたび」とはそういう意味で、漢字では木偏に骨に火とは……。

周囲の活気とは全く切り離され、道行く人はそこに朽ちつつある空間が存在するのを見て見ぬふりをしているのか見えないのか、見えているのは私だけなのかと思ってしまうようなありようだった。私がこの地を離れているうちにそこは更地になっていた。しかし、現在も周囲の雰囲気とはそぐわない物置じみた建物と残りは駐車場に使われているらしい怪しいといえば怪しい一画なのである。その妖しさは、気にとめることのない人にとっては気にとめようもなく、顧みられないどころか何かを感じるわけもないであろうが、昔々そこに周囲とつり合わない廃屋があったことを記憶しているものにとっては、当時からつながる妖しさには懐かしさすら覚える。
…とはいえすっかり忘れていた。が、突如として私の胸に甦った「ほたび」。しかも中井英夫の「とらんぷ譚」から立ち現れてくるとは。当時その響きに抱いていた謎めいた思いと“小さい頃そう思っていた”という記憶そのものの懐かしさの温かみ、そして今になって知った榾火の意味の暖かさと中井によりもたらされる幻想、さらに“ほた”という漢字が木偏に「骨」であるということと現在の自分の境地の極北さとが相まって、現在の私と幼い私とが二人して震撼とせざるを得ない皮肉も含んだ神秘と郷愁でいっぱいのあたたかさに包まれたような不思議な感覚を味わっています。

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